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2015/10/03

コラム:「ドイツで10万人近くが核兵器配備に反対署名」と報じるロシア国営通信の狙いから学べること

Nearly 100,000 People Protest Against US Nuclear Weapons in Germany

ドイツ当局に対し更なる核兵器の国内配備中止を求め嘆願

2015.10.01 露スプートニク

ドイツのメルケル首相、ガウク大統領、ドイツ政府に対し、10万人近い人びとが新型核兵器をドイツ国内に配備しないよう求める嘆願書に署名した。嘆願行動は、B61-12新型核爆弾20基をドイツ国内のビューヘル(Büchel)空軍基地に配備する計画が進められている中で行われた。同計画は、NATO北大西洋条約機構のニュークリア・シェアリング計画の一環として実施されており、国内外で懸念の声が発せられている。

同計画に反対する活動家らは、社会的変革を求めるプラットフォームである Change.org, を通じて嘆願行動を起こし、ドイツ連邦政府に対し、NATOによる核兵器配備への協力を停止するよう呼びかけた。嘆願書では、核配備計画を進めることはNPT核不拡散条約の第1条と2条、そして「国家間の友好を阻害する意図を持って行われる行為、とくに侵略戦争の計画は違憲であり処罰に値する」と規定するドイツ憲法の第25条パラ1に違反すると主張している。

2010年3月、ドイツ連邦下院議員の多くは、「同盟国の米国に対し、米国製核兵器をドイツ国内から撤去すること」を連邦政府に求める決議に賛成した。しかし、Focus Onlineによると、核軍縮どころか、米国は更に、広島型原爆の80倍の破壊力を持つ20基の核兵器を追加でドイツ国内に配備しようとしている。

嘆願書にはこう書かれている。

「計画が攻撃兵器の強化を目的とするものである以上、我々は連邦政府、連邦議会、及び首相、連邦大統領に対し、ドイツの国土における核兵器配備の停止を求める」と。

「情報戦」の意図を見極める冷徹な目を持つために

ドイツで広島型原爆の80倍の核兵器(原子爆弾)が配備されようとしている。これに反対する10万人規模の署名が集まった。ここまでは事実だ。だが、このことを積極的に報じているのはロシアのスプートニク(旧国営放送「ロシアの声」)だ。ここは差し引く必要がある。

「ロシアの声」は「ロシア国営ラジオ局で、1929年から海外放送を開始。ロシア政府による予算で運営されており、国際社会に対して、ロシアの生活や世界情勢に対する見方などを紹介する」ために存在する。その国営放送が、「ロシアの声」改め、「スプートニク」へと改名を発表したのは今年3月のこと。リア・ノーヴォスチ通信と合併して、世界の情報通信網を強化して生まれたのが、スプートニクだ。つまり情報戦の一環だ。

だが、ここで平衡感覚を失ってはならない。敵対する国、敵と想定する仮想敵国同士が、このように情報戦を展開することは、国際社会では常識だ。かといって、その表層の事実(敵対関係にあること)で、発信される情報を全て「情報操作」と安易に受け取ってはならない。

ロシア国営通信である『スプートニク』がドイツでの核配備問題を積極的に取り上げ世界に発信するのは、何も「情報戦」の中で比較優位に立つためだけではない。 そこには偶発的核戦争を抑止する意図も含まれている。元よりロシアも、核軍拡競争の拡大を望んではない。

冷戦時代、旧ソ連が米国に敗北した原因は経済だった。産業競争力と工業生産力を併せ持つ超経済大国アメリカは、核軍拡競争を続けてもソ連に勝てるだけの余力を持っていた。ところがソ連側は違った。ソ連経済は膨大な国防費負担で疲弊し、国民の生活は困窮した。

熾烈な核軍拡競争の末、旧ソはアメリカの強大な経済力の前に崩壊した。ロシアはこれを苦い教訓としながら、今度は経済に力を入れ、その結果として今の経済大国ロシアがある。核軍拡競争に敗れたロシアにとって、再びその呼び水となる米国の行動は無用な挑発でしかない。

ただでさえ、今は中国の経済不安の煽りで世界経済が不安定な時。こんな時にアメリカの核軍拡競争への呼び水を受け入れたら、そのままとめどのない競争に引き込まれる。しかしロシアは冷戦で重大な教訓を得た。いかに経済力があっても国防産業のみで国は成り立たないと。

こうした総合的なコンテクストで考えると、国営通信『スプートニク』がアメリカの新型核爆弾のドイツ追加配備を積極的に報じるのは、単にその計画自体を思い留まらせる国際世論を作り出すためではなく、その計画の背後にある思惑をも打ち砕くための先手なのだろう。

この『スプートニク』の記事のように、こうした国家の思惑を反映した「情報戦」というのが国際社会では日常茶飯事ではあるが、それが必ずしも好戦的な目的をもってのみ行われるものではない。平和裏に国民の平和と財産を守るための「情報戦」も存在するのだ。

しかし残念ながら、日本にはこうした高度に平和的な情報戦を展開できる能力はない。それは仮想敵国中国も同じことだ。米ソ冷戦がなぜ冷戦のままで終わることができたか。それは各国が長き冷戦を通じて、よくもわるくも成熟したからだ。が、日中関係は成熟していない。

安倍政権下、保守たる本分を忘れた、国際社会に「極右」と警戒される国粋主義的な自公政権下で、日中が現在の米ロのような情報戦を展開できると考えるのは希望的観測だ。その分、私たち国民は日中間で展開される情報戦を冷静に見極める目を養わなければならない。



Translation: Office BALÉS News

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